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高野進先生インタビュー

高野進
「ちょっとそこまで走ろう」 〜なぜ“かけっこ”なのか?

走ることは誰もが習得することができる技術です。アカデミー、出前かけっこ教室を通じて、正しい走り方を伝えることを目指します。アカデミーでは、かけっこが好きな子ども達が集まるので、より速く走るための指導を行い、また、正しい走り方を伝授することができる指導員の育成も行います。出前かけっこ教室では、学校教育の現場の先生方と意見交換をしながら、走ることが苦手な子どもたちにも、走ることは楽しいと感じてもらえるプログラムを展開しました。速さだけではなく、走りの技術を身につけることで、身体を動かすことが好きになり、生涯にわたって健やかに過ごすことができるのです。

−高野先生、こんにちは。今日は「かけっこ」の大切さを教えていただきに参りました。そもそも高野先生が陸上を始められたのは、足が速かったからですか?

学生時代は、他の人より少し速いくらいでした。それよりも、性格的に、自分の内面の変化に関心があったことが大きいと思いますね。決まった距離の中で、自分が走り方を変えていくことでどんどんタイムがあがっていくことが、すごく面白い。中学や高校のとき、サッカーや野球をやっている同級生から、「単純に走っているだけなのによく飽きないね」と言われましたが、同じことをやっているように見えて、自分の中で毎日ドラマチックな変化が起こっているから、楽しくて仕方なかったですね。

−高野先生が教科書に書かれたエッセイのタイトルは、「動いて、考えて、また動く」ですね。

人間は動くことによって進化を遂げていて、頭が勝手に賢くなってきているわけではないんですよ。二本足で立ち上がったとか、手を使い始めたとか、実際に自分が必要に応じていろんな動きを先にまず行うことによって、それに追いついて脳が鍛えられてきている。だから、まずは動いてみる、そしてそこから考えることが、とても大事なんです。

−歩くのではなく、走ることが大切なのはなぜですか?

歩くというのは無意識でできる動きです。ところが、走るためには、まず、走ろうという意思が必要です。体を一回宙に浮かして、ちょうどいいところに接地して、また次のジャンプに備えるということの繰り返しなので、実は、ものすごく脳を使うんですね。走ることで元気になるのであって、元気だから走るのではないんですね。極端に言えば、走っているうちは頭がはっきりしていますから、徘徊することはないんです。だから、走ることが文化になれば、健やかな健康な高齢化社会の問題の何か一端は、方向が改善されるのではないかと思って活動しています。

−単純な動作でありながら、体だけでなく、脳も鍛えられる.のですね。

しかも、走ることは、他のスポーツと違って、私服のままで日常生活に取り入れることができます。例えば、横断歩道をいつも20歩で渡っていたのを15歩にしてみる。玄関からエレベーターまで10歩で歩くところを、走って4歩で行ってみる。そんなことが1日に1〜2回でもできると、気持ちが変わってきます。僕も、自宅のマンションで、エレベーターから降りて自分の部屋までの数メートルを3〜4歩で走ったりするんですよ。僕が「かけっこ」を通じてめざしているのは、「ちょっとそこまで走ろう」という感覚を広げることです。

−どうしたら、その「ちょっとそこまで走ろう」という感覚が身につくでしょうか?

子どもたちには、自分に合ったいい走り方、最適な走り方を見つけてほしいと思っています。そうすれば、動けるようになるし、動けば自然と体力がつく。太った子でも、やせていて筋力がない子でも、気持ちよく、きれいな走り方を目標にしてやれば、走っていて気持ちいいという瞬間が見つかるわけです。小学生のうちからそういったことがわかると、ある選手はトップの選手になれるし、そうでなくてもずっと運動を続けて行ってくれると思う。

−コカ・コーラ教育・環境財団と取り組んでいただいている「かけっこアカデミー」と「出前かけっこ教室」。燒先生の狙いを教えてください。

「かけっこアカデミー」は、かけっこが大好きな子が集まってくる場なので、その期待に応えて、より速く走ることができるように指導します。小学校に出向いておこなう「出前かけっこ教室」はかけっこが苦手な子も多いので、速く走ることだけではなく、走り方を教えることを大事にしています。速さは一つの指標ですが、走ることは、速さの問題だけではない。だから、時々やるのが、「走りの発表会」というプログラムです。速く走ることを発表したい人はそれでいいし、楽しい走り方を表現してもいい。かっこいい走り方を見せてもいい。それぞれが自分の今の体力で表現できる走り方をみんなの前で発表しなさい、ということですね。

−走りを発表することには、どんな意味があるんでしょうか?

走るというのは、とても単純な動作なんですが、その人の内面が出てしまうんです。大学生くらいになると、全力で走るのが恥ずかしくなるでしょう?走ることは非常にシンプルな動作なので、普段隠している自分が露呈するんです。人前でダンスしているようなものなんですね。逆に言えば、走り方を考えることは、自分と向き合うことだし、自分を見てもらうきっかけにもなる。もちろん、スピードは遅くても、いい走りをしているな、と、先生の側が認めてあげられることも大切です。

−「出前かけっこ教室」では、小学校の先生方との座談会も行っています。

出前授業の場合は、研究授業の要素があると思うんです。速さや健康づくりだけではなく、自分と向き合ったり、自分を見てもらったりするという教育の方法の一つとして、学校体育の中で走ることに取り組んでいただけたらいいなと考えています。また、指導方法を身につけていただき、今後の授業に活かしていただくことで、走りを好きになる子を増やしていきたい。そのためにも、先生や地域の指導者の方々に、走りの指導方法も伝えていきたいですね。

プロフィール
東海大学体育学部 教授
1961年5月21日生まれ 静岡県富士宮市出身
特定非営利活動法人 日本ランニング振興機構 理事長
東海大学陸上競技部 監督
日本スプリント学会会長
400m日本記録保持者(44秒78)
ロサンゼルス・ソウル・バルセロナのオリンピック3大会にわたり、陸上400M走の日本代表選手として出場。バルセロナ大会では日本人として60年ぶりに決勝進出を果たす。 現在、大学において、走ることのおく深さやすばらしさを教えるとともに、豊富な経験と研究成果を生かした独自のランニング理論やトレーニング方法を確立している。日本陸上界全般の競技力を向上させるため、国際競技会で活やくする選手の育成に努めている。

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